〇夢太き人と大地と春の空
福井正之氏の『追わずとも牛は往く』が出版された。
この小説のエピローグの最後は、次のようになる。
〈「このことは人生についても言えるだろう。死期に近づけば近づくほど人生を右肩上がりに描きたくなる。丈雄ももはや七十半ばである。しかし三度も人生コースを変更してきた自分には、これからの余生に寄りすがれる記憶は何もなかったように思っていたのである。が、まったくそうではなかった。今、その悔恨を別海『睦み』への愛惜によって溶かしながら、希望への、いいかえればわが自己肯定への道に、微かながらに灯りがついたように感じるのである。(完)」〉
そして、次のように語っている。
「このことが実現できたのも私の長い孤独な学究生活からというより、ブログやFacebookを通しての新旧の友人たちの心からの励ましあってのことでした。私は決して孤独ではなかったのです。最後になりますが、お伝えさせていただきます。」
★新刊本「追わずとも牛は往く」概要紹介
大空と大地と牛と 夢太き人々
今からざっと40年前、〝ブラブラ酪農〟の噂を聞いた社会科教師。
何を血迷ったか職をなげうち、一家四人でそこへ飛び込んだ。
ところは北海道別海原野。
おまけにそこは給与も出ない代わりに、仕事に出ることも強いられない。メシだけは普通に食える
――さてどんなことになるやら。
幻視される「金のためには働かない時代」
主人公は巨大化したコミューンを離脱して十数年。惜別の思いとともにしきりに想い出されるのは別海の「睦みの里」であった。
原野に転住した老いた農民たちが、仕事をしないブラブラ族の若者とともに、小さなコミューンを築いていた。
厳しい冬、はじけるようにやってくる春、牛たちとの生活。 労働とは? 共同体とは?
激動する時代の裂け目に、ふと幻視される「金のためには働かない時代」。それを日々体現しながら生きる人々。その群像を描く。
▽本書の内容
序章 番外地 第一章 発端 ハンカクサイ教師/雄大の〝越境〟/ブラブラ酪農/『睦み講』/妻 第二章 春遠し 転住第一夜/トレンチサイロ/育児舎/たちまち夜がやってくる/雄大の寝込み 〝襲撃〟/里育ちの娘/春吹雪/お父ちゃんわすれたんやろ/多佳の看病/母親が 迎えに来るまでの時間/睦み会 第三章 夏牛たち 萌え出ずるもの/摩周湖/自動解任/新職場/子どもたちの情景/乳牛との〝格 闘〟/「どれ代わってみろ」/固い焼き肉/広い敷地の長い通路/経営はここだって 生命線/メモ「金のために働かない時代は」/巣穴に籠もるブラブラ蜂へ/働かざる者/ 一日の時間の長さ/里の結婚式 第四章 冬子離れ ゆるぎない弓/里帰り/親しかできないこと 終章 岐路「一国平和主義」のゆらぎ/オニギリかモチか エピローグ |
※参照 わが学究 人生と時代の〝機微〟から:★新刊本「追わずとも牛は往く」概要紹介